2011年6月9日木曜日

5.万葉集以前の歌は、どういう歌であったか?

万葉以前の歌は、以下のようなものであったと考えられる。

  • 五・七のリズムは確定されていないが、その原型となるような、各種のリズムがあった
  • 民謡の形で、その中のすぐれ歌が残されて発展してきた
  • 民謡の一般特徴として、繰り返しが効果的に採用され、単純な繰り返しをさける技法が徐々に発展し、倭(わ)歌の原型が徐々に作られてきた(⇒下記の巻一・第1歌の前半)
  • 渡来人たちによる大陸および半島文化の導入により、大きく影響を受け、その過程で歌の形式、倭(やまと)言葉の音節表記法が確立されてきた
  • 漢詩の長歌、七言絶句、五言絶句の形式(句数、韻、対句、起承転結などの形式)は倭(やまと)歌に大きな影響を与えた
  • 倭 (やまと)言葉による歌の文字化(古代特殊仮名、万葉仮名)には、渡来人と在来人との間の長期にわたる交渉・協調関係があり、徐々に規則化されてきた。  記紀・万葉の時代にはそれが完成されていた。 その規則化(コードブック)は、ある時点で失われたが、人麻呂・万葉編纂者はその成立過程・内容・喪失の過 程などについて十分な知識をもっていた(そうでなければ、彼らがすぐれた歌を作り、記録することはできなかった)
巻一・第1歌(雄略天皇の作と記録されている)の前半部分は、以下のとおりである。 (参考資料3)

籠毛與  美籠母乳
こもよ   みこもち

布久思毛與 美夫君志持
ふくしもよ   みふくしももち

此岳迩    菜採須児   家告閑    名告紗根
このおかに  なつますこ  いえのらせ  なのらさね


この部分は、三・四、五・七、五・五、五・五の美しいリズムをもっている。 五・七の主要リズム制はとっていないが、リズム固定化の前の段階のリズムであると理解できる。

単音節・2音節の共通音による押韻、対句、繰り返し、序詞などの基本技法も自然な形で取り入れられている。 内容としても労働する民衆の感情を表現している。 おそらく長く歌われてきた民謡の一部であった可能性がある。

全 体として、万葉集の歌の基本特徴の固定化の過程が見られる。 この歌は一首だけ単独に作られたものではなく、同種の歌が民謡として膨大にあり、その中のい くつかが特に長期に広く愛され、その一つが万葉集に収録されたと考えたい。  (参考: 「万葉集と東アジア  ─ 太陽は東から昇り、文字は西から渡来 する」https://sites.google.com/site/manyoushuutohigashiajia/ [日大文理学部国文科・古代文 学入門1の本発表者の課題レポート] 2009)


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